磁場中での液晶性高分子多成分系の相構造形成とその構造解析
ポリペプチド液晶溶液を磁場中で配向したのち、ジアミノアルカンで架橋させポリペプチド液晶配向ゲルを調製した際に、偶然にハニカムネットワーク状の規則的な多孔構造(孔のサイズは数10mm)が形成されることを発見した(図1)。これはオーストラリア生息の海ねずみ(図2)が美しく発色(構造色による)する表毛の構造(図3)(孔のサイズはサブミクロン)と類似しており、孔のサイズは異なるがたいへんに興味深い現象である。この構造発現の機序(メカニズム)は未だ解明できていないが、架橋反応前の段階の既にポリペプチド液晶溶液中で、磁場によって液晶相と等方相の相分離が誘起した結果シリンダー構造が生じ、架橋反応により液晶相の棒状ポリペプチド分子が連続相となり、溶媒が孔の中に閉じ込められた多孔構造が形成されたものと予測している。このように液晶性高分子の多成分系の相構造形成においても、すでに研究が進んだ結晶系高分子の相構造形成同様に、球状、シリンダー、ラメラ等の構造を形成が予測されるが、液晶性高分子を用いた場合、ナノオーダーからミリオーダまでの様々なサイズの秩序構造を形成できる可能性がある。さらに、磁場や電場などの摂動を加えることにより、その方向やサイズ、形状の制御が可能ではないかと考えた。この仮説を検証するため、まず分子量、濃度を変化させたポリペプチド溶液を調製し、磁場中で高度に配向させリオトロピック・ネマチック液晶溶液中にどのような相分離構造が形成されるかを下記のNMRイメージング法などの手法を駆使して明らかにしたい。さらにそれを架橋させることによって形成される多孔構造やその他の構造の発生メカニズムとゲル中のポリペプチドの分子構造を明らかにしたい。これらに関する知見を集積し、系統的に分析することによって、高度に統制されたハニカム様式の周期構造の創成が可能となり、サブミクロンオーダーで孔の大きさが制御できれば新規の光学材料や物質分離材料としての応用が期待できる。
超高磁場勾配NMRイメージングシステムの開発と高分解能三次元NMR顕微鏡の構築
現在、医学臨床(医療診断)分野におけるNMRイメージング法(MRI)の有用性は広く認められているが、MRI法の材料科学(Material Science)分野へ応用はまだ端緒についたばかりである。この技術をナノレベルで構造が制御されつつある先端材料分野、例えば先に述べたハニカムネットワーク状の多孔構造を観測に応用するためには、医用MRI装置の分解能(数mm〜数10mm)を、サブミクロンさらには数十nmまで高分解能化する技術が不可欠である。そこで、既存のNMR分光器に装着可能な10T/m(1000G/cm)超の超高磁場勾配を利用したNMRイメージングシステムを開発し、サブミクロンオーダ以下の高分解能三次元NMRイメージング顕微鏡を構築したい。例えば、高分子ゲルのネットワークやその不均一構造に関して様々なタイプの模式図が示されているが、どれも想像の域を超えていない。図4はポリペプチドリオトロピック液晶のNMRイメージング画像で、等方相が球状構造として液晶相のマトリックスの中に分散していることがわかる。このように高分解能三次元NMR顕微鏡を用いることにより、ネットワークの不均一構造を視覚的に捉えることが可能になる。光散乱、小角X線散乱、中性子散乱等で、ゲルの構造を解析する試みはなされてきており、バルク体での不均一構造の評価法等が確立されつつあるが、たとえば架橋点の三次元的空間分布などは未だ明らかにされていない。高分子ゲルのみならず、高分解能三次元NMR顕微鏡は高分子/充填剤系、IPN、ブロックーグラフト共重合体などの構造解析にも適用可能である。三次元電子顕微鏡、X線顕微鏡は試料台に固定した試料を回転させるという点で、どちらかというと硬質な試料を対象としており、一方溶媒を多量に含んだ高分子ゲルや高分子液晶などのソフトマテリアルの三次元構造解析にはNMR顕微鏡が有力な方法となる。