1 共鳴周波数108.6MHzH800MHz)での17OラベルポリL-アラニンの固体17O MAS NMR スペクトル。下が実測スペクトル。上が理論スペクトル(a) (L-Ala)n[A/I=100] (a-heilx)
(b) (L-Ala)n[A/I=5](b-sheet)(スペクトル解析の結果、化学シフトおよび核四極子パラメータを決定でき、水素結合構造との相関が明らかとなった。)

2 固体NMR法の結果から導き出された新規超耐熱性ケイ素系高分子の熱硬化機構。
(固体
NMR
の結果から(a)Diels-Alder反応および(b)ヒドロシリル化の2つの反応が同時並行で進行していることを明らかにした。)

17Oなどの固体NMRによるペプチドの水素結合構造研究

 水素結合はタンパク質の高次構造の安定化に重要な役割を果たしていることから、水素結合近傍の構造を詳細に解析することのできる新たな方法を開発することで、タンパク質の高次構造発現機構を詳細に検討することができる。そこで、水素結合に関与するカルボニル基とアミド基の炭素、酸素、水素、窒素原子に注目し、NMR観測可能な核種、13C、17O、H、2H、15NのNMRスペクトルから化学シフト等のNMRパラメータを決定するとともに、量子化学計算との組み合わせにより水素結合構造に関する種々の情報を抽出できることを明らかにした。
 特に17O核は天然存在比が0.037%と低いことから、高感度で測定するためには同位体ラベルが必要である。さらに17O核はスピンが5/2の四極子核であるため、その固体NMRスペクトルは核四極子相互作用のため広幅化し複雑な線形を示すため、有機物とくにタンパク質のモデルとなるペプチド化合物のデータは皆無であった。1994年、ペプチド主鎖のカルボニル基の酸素を17O同位体ラベルしたペプチドおよびポリペプチドを合成し、世界で初めて固体17O NMRスペクトルの測定に成功するとともに、17O NMRパラメータと水素結合構造の関係について報告した。近年、国内外で超高磁場、H共鳴周波数1GHz級のNMR装置が開発・実用化されつつあることから、この研究はにわかに脚光を浴びている。その当時は1H共鳴周波数270MHz、400MHz、および500MHzNMR装置を用いて研究をまとめたが、その後、1999年Bruker Biospin本社(ドイツ)で当時、世界最高磁場800MHz のNMR装置を借用する機会を得、超高磁場でのペプチドおよびポリペプチドの固体17O NMRスペクトルを測定し得られた結果を報告した。この成果は現在でもBruker Biospin社のWeb上で、超高磁場が固体17O NMR研究に有用であることを示す例として紹介されている(図1)。
 なお、私がそれまでに行った固体NMRを用いたペプチドおよびポリペプチドの水素結合構造に関する一連の研究は、1997年発行のG.A.Jeffrey著の“An Introduction to Hydrogen Bonding” (Oxford University Press)において詳しく紹介されている。
 その後、2001年7月から9ヶ月間、文部科学省在外研究員として四極子核の固体高分解能NMRスペクトルを得るMQMAS法の世界的権威、米国アイオワ州立大学エイメス研究所M.Pruski博士の下で、その方法をペプチドおよびポリペプチドの17O核に応用すべく研究をおこなった。現在、さらに群馬大学工学部生物化学工学科 莊司 顯教授、尾崎 拓男助教授と共同で数種の17Oラベルペプチドを合成し、分子研(岡崎市)の1GHz級の超高磁場NMR装置を用い、MQMAS法をもとにした固体17ONMRスペクトルの高分解能化技術を目ざした研究が進行中である。

固体NMRによる先端ケイ素系高分子材料の構造解析

従来の方法ではその構造解析が困難であった新規高耐熱性ケイ素系高分子材料に対して固体NMR法を用いた高精度構造解析を行い、その熱硬化機構を明らかにした(図2)。この結果は、2005年発行のP.A.Mirau著の“A Practical Guide to Understanding the NMR of Polymer” (Wiley)においても紹介されている。

超高磁場勾配NMRの開発と高分子ゲルおよび高分子液晶系への拡散への応用

溶液中の高分子など遅い拡散を正確に解析することを目的として2000G/cmの磁場勾配が発生可能な高磁場勾配NMRプローブの研究を進め、2000年にその開発に成功した。この高磁場勾配NMRを用いると、高分子ゲル中に分散したプローブ分子の自己拡散を通してゲルネットワークサイズを評価することが可能である。例えば、n−パラフィンの結晶相と等方相の間に現れる“回転相”と呼ばれる、中間相(パラフィン鎖が長軸周りに回転している)における自己拡散係数を磁場勾配NMRを用いて測定することに成功した。回転相においてパラフィン鎖が並進運動していることが明らかになるとともに、その拡散挙動に明確な異方性があることを見いだした。その後、サーモトロピック液晶やリオトロピック液晶を形成するポリペプチドの液晶相での拡散自己拡散係数を測定することにも成功し、これらの系においても拡散に顕著な異方性があることを明らかにした。現在、この測定方法に高分子液晶科学の権威である本学、有機・高分子物質専攻の渡辺順次教授が注目し共同研究として、様々な液晶系に応用している最中である。

三次元NMRイメージング顕微鏡の開発と高分子構造解析への応用

近年、「高分子の三次元イメージング」として脚光をあびている分析法として、@ 三次元電子顕微鏡、AX線顕微鏡、BNMRイメージング法(MRI法)の3つがある。私は、上記の研究課題に加えて先端高分子材料分野に応用可能な”三次元NMRイメージング顕微鏡”の開発を行った。NMR顕微鏡を他の方法と比較すると、空間分解能は低いものの、形態情報たけでなく化学シフトなどの相互作用も画像化できるという長所がある。そこで、私はこの手法を用いて高分子ゲル中の金属イオンの分散状況や、高分子ブレンドの相分離構造(図3)が解析可能であることを明らかにしてきた。これは京都工芸繊維大学繊維学部高分子学科陣内浩司助教授との共同研究の成果である。

これまでの研究内容

図3 ポリスチレンーポリメタクリル酸メチルの3D相分離構造。上:NMRイメージングの結果 下:XCTの結果(NMRイメージングのデータを用いて高分子の相分離構造の3次元解析が可能なことを明らかにした。)

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