図1 共鳴周波数108.6MHz(1Hで800MHz)での17OラベルポリL-アラニンの固体17O MAS NMR スペクトル。下が実測スペクトル。上が理論スペクトル(a)
(L-Ala)n[A/I=100] (a-heilx)
(b)
(L-Ala)n[A/I=5](b-sheet)。(スペクトル解析の結果、化学シフトおよび核四極子パラメータを決定でき、水素結合構造との相関が明らかとなった。)
図2 固体NMR法の結果から導き出された新規超耐熱性ケイ素系高分子の熱硬化機構。
(固体NMRの結果から(a)Diels-Alder反応および(b)ヒドロシリル化の2つの反応が同時並行で進行していることを明らかにした。)
固体NMRによる先端ケイ素系高分子材料の構造解析
従来の方法ではその構造解析が困難であった新規高耐熱性ケイ素系高分子材料に対して固体NMR法を用いた高精度構造解析を行い、その熱硬化機構を明らかにした(図2)。この結果は、2005年発行のP.A.Mirau著の“A
Practical Guide to Understanding the NMR of Polymer” (Wiley)においても紹介されている。
超高磁場勾配NMRの開発と高分子ゲルおよび高分子液晶系への拡散への応用
溶液中の高分子など遅い拡散を正確に解析することを目的として2000G/cmの磁場勾配が発生可能な高磁場勾配NMRプローブの研究を進め、2000年にその開発に成功した。この高磁場勾配NMRを用いると、高分子ゲル中に分散したプローブ分子の自己拡散を通してゲルネットワークサイズを評価することが可能である。例えば、n−パラフィンの結晶相と等方相の間に現れる“回転相”と呼ばれる、中間相(パラフィン鎖が長軸周りに回転している)における自己拡散係数を磁場勾配NMRを用いて測定することに成功した。回転相においてパラフィン鎖が並進運動していることが明らかになるとともに、その拡散挙動に明確な異方性があることを見いだした。その後、サーモトロピック液晶やリオトロピック液晶を形成するポリペプチドの液晶相での拡散自己拡散係数を測定することにも成功し、これらの系においても拡散に顕著な異方性があることを明らかにした。現在、この測定方法に高分子液晶科学の権威である本学、有機・高分子物質専攻の渡辺順次教授が注目し共同研究として、様々な液晶系に応用している最中である。
三次元NMRイメージング顕微鏡の開発と高分子構造解析への応用
近年、「高分子の三次元イメージング」として脚光をあびている分析法として、@ 三次元電子顕微鏡、AX線顕微鏡、BNMRイメージング法(MRI法)の3つがある。私は、上記の研究課題に加えて先端高分子材料分野に応用可能な”三次元NMRイメージング顕微鏡”の開発を行った。NMR顕微鏡を他の方法と比較すると、空間分解能は低いものの、形態情報たけでなく化学シフトなどの相互作用も画像化できるという長所がある。そこで、私はこの手法を用いて高分子ゲル中の金属イオンの分散状況や、高分子ブレンドの相分離構造(図3)が解析可能であることを明らかにしてきた。これは京都工芸繊維大学繊維学部高分子学科陣内浩司助教授との共同研究の成果である。
図3 ポリスチレンーポリメタクリル酸メチルの3D相分離構造。上:NMRイメージングの結果 下:X線CTの結果(NMRイメージングのデータを用いて高分子の相分離構造の3次元解析が可能なことを明らかにした。)