氏名 滝上 義康
所在 大岡山南1号館518号室 (内線2889)
e-mail ytakiue@polymer.titech.ac.jp
研究テーマ 19F NMRを用いたフッ素樹脂の構造解析
所属学会 高分子学会

研究内容

ポリフッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(P(VDF/CTFE))の構造解析

 ポリフッ化ビニリデン(PVDF)は加工性が良く,ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)は 耐寒性や寸法安定性に優れています. この二つの樹脂を共重合することで低温でも使用可能な加工性の優れたP(VDF/CTFE) (図a))が得られます. 実際にP(VDF/CTFE)は少量で機能を発揮できる被膜材料としての利用が注目されています.
 PVDFでは二次結晶化と呼ばれる結晶構造の変化が起きることがDSC測定により報告されています. 二次結晶とはガラス転移点以上,融点以下の温度にてアニールすることで形成されるポリマー鎖が 束状になった構造です. PVDFはガラス転移点が-40℃と低く,室温においていても非晶部の運動が活発なため二次結晶化が 進行すると考えられます.
 二次結晶化にともなうエンタルピー変化がDSCで観測されるのみで,構造に対する詳細なデータは まだ得られていません. そこで,二次結晶の構造を明確にすることを目的として,19F MAS NMRによる解析を行いました.
 図b)にNMRスペクトルのピーク分離を示しています. -100ppmより左側の三つの信号はVDFのα晶,VDFの非晶,VDFのα及びβ晶と帰属され,残りは VDFの異種結合(頭-頭,尾-尾結合)とCTFEに帰属されます. ピーク分離後の面積比から結晶化度とα,βの比率を求めることができます.
 図c)にDSC測定の結果を示しています. 最初の昇温過程では結晶の融解に伴う150℃以上の吸熱ピーク以外に, 60,120℃付近で吸熱ピークが観察されていますが,二回目の昇温過程ではそれらは 観察されません. これは二次結晶に由来していると考えられます.
 DSCの結果から120℃で二次結晶が主に融解することが確認されたので,それに伴う結晶構造を調べれば 二次結晶の構造が分かります. そこで,120℃以上のさまざまな温度で試料を熱した後スペクトルを取り,ピーク分離から結晶構造の解析 を行った結果を図d)に示しました. この熱処理ではβ晶の量は変化せず,α晶が減少し非晶が増加しています. この結果から,120℃で融解する二次結晶はα晶に近い構造を取っていることが分かりました.

- 関連発表 -
滝上義康,龍野宏人,安藤慎治,第55回高分子年次大会55(1),(2006).