ポリフッ化ビニリデン(PVDF)は加工性が良く,ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)は
耐寒性や寸法安定性に優れています.
この二つの樹脂を共重合することで低温でも使用可能な加工性の優れたP(VDF/CTFE)
(図a))が得られます.
実際にP(VDF/CTFE)は少量で機能を発揮できる被膜材料としての利用が注目されています.
PVDFでは二次結晶化と呼ばれる結晶構造の変化が起きることがDSC測定により報告されています.
二次結晶とはガラス転移点以上,融点以下の温度にてアニールすることで形成されるポリマー鎖が
束状になった構造です.
PVDFはガラス転移点が-40℃と低く,室温においていても非晶部の運動が活発なため二次結晶化が
進行すると考えられます.
二次結晶化にともなうエンタルピー変化がDSCで観測されるのみで,構造に対する詳細なデータは
まだ得られていません.
そこで,二次結晶の構造を明確にすることを目的として,19F MAS NMRによる解析を行いました.
図b)にNMRスペクトルのピーク分離を示しています.
-100ppmより左側の三つの信号はVDFのα晶,VDFの非晶,VDFのα及びβ晶と帰属され,残りは
VDFの異種結合(頭-頭,尾-尾結合)とCTFEに帰属されます.
ピーク分離後の面積比から結晶化度とα,βの比率を求めることができます.
図c)にDSC測定の結果を示しています.
最初の昇温過程では結晶の融解に伴う150℃以上の吸熱ピーク以外に,
60,120℃付近で吸熱ピークが観察されていますが,二回目の昇温過程ではそれらは
観察されません.
これは二次結晶に由来していると考えられます.