熱拡散率とは、熱伝導率を比熱容量と密度で除算した、熱伝導率の支配要因となる物性値です。ポリマーのような非結晶性絶縁体においては主に格子振動によって熱が伝えられるため、剛直な構造であるほど熱拡散率は大きく、また一軸延伸により分子鎖を配向させるとその方向に熱拡散率が増大することが知られています。
そこで、様々な分子構造を有するポリイミド(PI)を用いて、分子鎖が面内に配向しやすい薄膜における、面外(膜厚)方向の熱拡散率(a^)と分子構造及び高次構造との関係を、分子鎖の配向の半定量的な評価として用いられる複屈折(Δn)を考慮した評価式φTMを用いて考察しました。具体的には交流温度波分析法によりa^を測定し、プリズムカプラにより薄膜の面内方向屈折率(nTE)と面外方向屈折率(nTM)を測定しΔn 及びφTMを算出しました。
結果として、φTM値とa^には正の相関が見られたことから(図1)、PI薄膜における面外方向の熱拡散率は分子構造の剛直性のみならず、面内方向への配向度や面外方向への分子鎖の凝集状態の影響を受けることが明らかとなりました。結果より得られた高熱伝導性ポリマーの設計指針としては、高い屈折率かつ低い複屈折、つまり稠密な分子構造及び高次構造を持ちかつ面内に配向しにくい構造が有効であると考えられます(図2)。また、主鎖に硫黄原子を含んだPIにおいては、大きなφTM値にもかかわらず主鎖に硫黄原子のような重元素を含まないPIに比べて低い熱拡散率を示しており、この結果はPIのような非結晶性絶縁体の熱伝導の要因である、原子核の格子振動によるフォノン速度が、重元素(硫黄)の導入により低下するとの過去の知見と符合しています。
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図1 φTM と面外方向熱拡散率 a^ の関係 |
図2 φTM の定義式 |
-関連文献-
依藤大輔,安藤慎治,橋本寿正, 高分子学会予稿集,57(1),1389
(2008)
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